「富裕層と尾道」 良いとこ尾道 第2回

 尾道は江戸時代から明治時代にかけて、北陸など日本海沿岸から瀬戸内海を通り大阪との物流ルートだった北前船の寄港地で経済的に栄えていた土地柄で、今でも「老舗」の類の店が息づいています。
 そこの若旦那衆は遊びの達人なのでしょうか、商工会で知恵を出し合い様々なイベントや仕掛けで私たち観光客を呼び込んでくれます。観光客にはピンからきりまでありますが、尾道ラーメン目当ての人や、私のようにタダで猫の写真を撮ろうとする層もあったりする反面、「富裕層」という平たく言えばお金持ちも満足させる仕掛けもあります。今回はその辺りを私の視点で見た事を書いてみます。

 富裕層と言ってまず思い浮かぶのがJR九州の超高級クルーズトレイン「ななつ星」が一世を風靡したことですが、JR西日本でも新装して走り出した「トワイライトエクスプレス瑞風」の立ち寄り観光地として広島県では尾道駅と宮島口駅の2駅が選ばれました。
 それに前後して文化庁が各地域に点在する有形・無形の文化財をパッケージ化して我が国の文化・伝統を語る「日本遺産」に昨年、尾道市が認定されました。

今風の竜宮城「ガンツウ」が行く

 お金と時間に糸目をつけないで観光をしてみたいものですが、今回の私の観光は公私多忙な中から何とか時間を紡ぎ出して、そのうえモデル代が無料のネコの写真を撮りに福山市の松永から鞆の浦に車を走らせていました。
 途中、鞆の浦まであと少しという阿伏兎観音の手前で海が見えるのですが、遠くに何やら違和感のある船影が見えます。ピピッときて車を道端に停めて、ネコと戦うために持参していた望遠レンズで近づいてくるのを待ちます。

 グレイッシュな色の船体はニュースで流れていた「せとうちの海に浮かぶ小さな宿 guntû(ガンツウ)」です。無類の乗り物好きですのでゆっくり近づいて、目の前を通り過ぎて内海大橋の下をくぐるまで日焼けをするのも忘れて見入ってしまいました。色合いはシックですが竜宮城が海に浮かんでいるようにも見えます。 調べてみますと、聞きなれない船名はイシガニの尾道地方における方言に由来するそうで、室料が「1泊、40万円~100万円(1室を2名利用の場合)」とか書いてありますが0の桁を一つ取っても手が届かない金額ですので真面目に調べる気にもなりません。

guntû|ガンツウ公式サイト
せとうちの海に浮かぶ、ちいさな宿「ガンツウ」のご予約はこちらから。西は山口県上関沖から東は香川県小豆島沖まで、瀬戸内海を西へ東へと漂いながら、過ぎゆく時を愉しむ。唯一無二の船旅をご提案いたします。

 世界的な視野で言うとクルーズ客船といわれるジャンルにもランク分けがあるようで「マス」クラスという大衆ランクの上に「プレミアム」クラスがあり、そのまた上に「ラグジュアリー」クラスがあるそうで、クイーンエリザベス号など思い浮かべてしまいます。
 実はそのまた上に「ブティック」クラスという比較的小規模な船で、乗客に対する乗組員の比率を高くして、ゲストによりきめ細かいサービスを提供するクラスが存在するそうです。ガンツウは国内でそのクラスを狙った新たなビジネスモデルとして注目されているそうです。
 豪華ホテルでも私のように物怖じせずズケズケ入り込む者がいたりしますが、さすがにガンツウは遠くから指をくわえて見るしかできません。

 その後に鞆の浦でまたまた「ネコ」対「不審者」のにらめっこをします。この様子は後日報告することとしますが、鞆の浦はスタジオジブリと関係が深いそうで宮崎駿監督が篭って「崖の上のポニョ」の構成を練ったりして世界観のモデルになったと言われるそうで、後にジブリの社員旅行もこちらで行われたりしたそうです。

 富裕層がターゲットのホテル「ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道」

 鞆の浦を折り返して帰途に就きますが、途中でメインルートから外れて交通の便が良いとは言いにくいのですが常石造船のお膝元の境が浜にあるリゾートホテル「ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道」に立ち寄ります。

ベラビスタ便り | 【公式】ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道
客室はすべて絶景のオーシャンビュー。瀬戸内海の輝きを望む、穏やかで極上の時間。特別なお部屋で優雅なひとときをお過ごしください。

 ここに来ますと、先ほど目の前を通っていったガンツウが停泊して清掃作業に入っていましたが、それよりも目に入ったのが「せとうちSEAPLANES」のフローティングポートの上で準備中の赤い水上飛行機です。

 飛行機好きの私にとって宮崎駿監督の作品中で忘れられないのが「紅の豚」です。森山周一郎の渋い声で主人公ポルコ=ロッソが言った「飛ばねぇ豚はただの豚だ」は映画史に残る名せりふの一つです。
 作中の「サボイアS.21試作戦闘飛行艇」と機体のシルエットは全く異なりますが、同様にペイントされた赤い機体は宮崎監督が監修、鈴木敏夫プロデューサーが尾翼の紋章を揮毫し、イタリア語で「赤い翼」を表す「ラーラ ロッサ」と呼ばれています。聞いてみますと通常は白い機体での運行が多いそうですが、出てきてラッキーだそうです。

 今回は富裕層の話ですので、まずは丘の上のホテルの方を見ますと、玄関から入って正面の通路を進むとガーデンデッキの水盤が海に向かって一直線に溶け込むように伸びています。目を見張るというのはこういうことかなと思います。 宿泊代はまあ、良いお値段の富裕層向きで、レストランもガラス張りの建物や青いモザイクタイルで装飾された席など普通の人が思っている「尾道」像とはかけ離れています。

 お昼時でしたので、下のマリーナに降りて「SOFU パスタ&カフェ」で昼食とします。目移りするお洒落なパスタとしたいところですが、迷った挙句に守りに入ってオーダーしたのはナポリタンです。マリーナに面したオープン席でガンツウを眺めながらまずは彩り鮮やかなサラダを頂きます。

 ナポリタンがやってきましたが、ここではスタッフさんが、石鹸のようなチーズの固まりをおろし金でヨシと言うまで摺ってくれます。守りに入ったと言いながらリッチな味わいで満足できます。

「赤い翼」が飛ぶ

 外には「せとうちSEAPLANES」のグッズ販売を兼ねたホットドッグショップもあって、前からここのエビドッグを食べてみたいのですが未だありつけていません。

 接岸している「ガンツウ」を観察している間に「ラーラ ロッサ」が水上に降りて出発デッキに接岸したのでカメラを構えて写真を撮る体制に入ります。

 「せとうちSEAPLANES」は下記サイトにあるように、50分間の遊覧飛行がメインの事業ですが、広島空港から交通不便な「ベラビスタ」まで送迎したりなどのチャーターもやっています。冒頭に書いた「トワイライトエクスプレス瑞風」の乗客も豪華バスでここまで来て時間を過ごすのですが、オプショナルとしてクルーザーや水上飛行機での遊覧などお金に糸目をつけない方々を飽きさせない仕掛けが用意してあるそうです。

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 とか言っている間に水上飛行機の乗客が電気自動車に乗って出発デッキ脇の保安検査場にやってきました。ここで通常の空港と同様に金属探知機で保安検査を行ってフェンスの向こう側の飛行機に搭乗することになります。
 ホットドッグショップのスタッフさんの話では、この便は定期便ではなくチャーター便だそうで、思ったより早く飛んでいくのが見れそうです。
 出発デッキでは地上スタッフさんが主翼下のロープをのけぞるように後ろに引いて、その間に繋留索を解きます。その後にスタッフさんに押し出されて飛行機が出発していきました。

「飛行機」とは言いましたが水上にいる間は「船舶」扱いで船の法律が適用されるそうですが、その間にも方向舵と昇降舵を上下左右に動かして航空機として離水前のチェックを怠りなく行っていました。

 暫くフローティングポートに視界を妨げられ見えなくなりましたが、境が浜と百島の間の離水エリアを水しぶきを上げながら滑走していく姿を見ることができました。完全な離水はガンツウと造船所の船に遮られて見えませんでしたが、「富裕層」というテーマをつけながら、結局自分の大好きな飛行機で締めくくってしまいました。

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