梅雨のさなかでも、信号機のない田舎暮らしですので、身近にホタルを見たり、カタツムリの目を見たりと、目に入るものは全て楽しみに変えてしまう「Window-tribe」です。
さて、私は初めて会う方には「私は社内で一番の分からず屋です」と自己紹介するのですが、それと言うのも、元来がおっちょこちょいで早とちりして幾度となく失敗を重ねましたので、少しは人様のお話をじっくり聞くようになりました。時には相手をイラつかせる事もありますが、「会社で一番の分からず屋の私が理解出来れば後の工程の誰にでもご要望が伝わりますんで」というポリシーで日々研鑽しています。
先般、組版にルールが存在することを書きましたが、今回はその運用について書いてみたいと思います。
研究紀要との出会い
ニシキプリントも創業者が1馬力から会社を興して、昨年、多くのご愛顧を頂き、節目の半世紀の歴史を刻む事が出来ました。会社を「法人」とも申しますが人間と同様に紆余曲折を経て成長をしてまいりました。
当社の歴史を紐解きますと創業から10年ほど経ちますと官庁との取引も増し、学問の府「大学」様とも、お取引きが頂けるように成長いたしました。社歴で言えば未だ「中学生」レベルの新参者ではありましたが大先輩の営業努力でご注文に結び付けてもらいました。
いざ仕事を始めてみますと、大学の先生方は研究成果を報告・発表・教育されるのが常ですので「書くことのプロフェッショナル」集団で、そこで、それまで聞いた事のない「研究紀要」という類の出版物にお目にかかりました。
私も20歳前後のハナタレの見習いでしたが、当時は和文タイプライターでの組版でしたので、それまでの官庁の文章ではお目にかからなかった英文との混植や数式・化学式に直面しました。
原稿を頂きますと和文のタイピングに出す前に、IBMの英文タイプライターで先に欧文部分だけを抜き出して入力してその字幅を0.5字単位で計って和文タイプの時にその欧文の文字幅分を空けて打ち、その空欄に後から英文を貼りこむという、今から考えると手間な作業をしていましたが、時間の流れは今とは違って緩やかで丁寧に作業していました。
やっとの思いで出した校正を執筆者様から返して頂きますと私どもの至らない点をご指摘頂きました。この頃から「組版ルール」を強く意識するようになりましたので、勉強会を開いて不足している事柄を補い、共有しながら成長していき、業界団体のコンテストで労働大臣賞の栄に浴することも出来ました。この時の初代の社長の喜びは私にとっても大きな財産となりました。
そして時は流れ、ワード、エクセルの台頭で当時の組版ルールが危機に瀕している事は前回に述べました。以前、総組版していた「研究紀要」もワードでそのまま印刷原稿となる仕事も多くなってきています。
一方、昔ながらにキッチリと組版をする研究紀要もわが社の大きな柱としてお客様の期待の応えるべく精進をしています。
ルール通りにいかない事もある。
組版機の技術進化は著しく進み、従来は別々の工程だった組版工程から製版工程までを一気に包括出来るようになりました。しかし技術は変われど前述のように積み重ねてきた組版ルールは大切な財産として息づいていますが、未だ完成とは言えません。
ルールに従って組んでいても欧文や数式などの改行前後で歪みが出て、詰め込むか広げるか思案のしどころです。
校正紙をちょっと視線を引いて眺めますと周囲より異様に詰まっていたり、逆にスカスカな所が見えることがあります。私は「校正紙に耳を近づけると文字の囁きが聞こえるじゃろう」とか言っていますので危ないオジサン扱いされますが、紙面全体との調和を考えて「文字のしてほしい事」をあれこれと感じ取り策を弄します。
句読点を版面外にぶら下げ処理をしたり、長体・平体と言いますが文字を少しばかり変形させたり、こっそりと版面を広げたり行間を変えたりなど、率直に言えば「小手先で誤魔化す」指示を出します。
ところがどっこい、そんな私の「ちょっと位はルールを破ろうや」という弱腰な姿勢を「出来ません」ときっぱり断る「石頭」なオペレーターさんと押し問答になることもあります。頑なまでにルールを守ろうとする姿勢に「それじゃあ40km/h規制の道路は40km/hで走るんじゃの?」と言えば「40km/hで走ります」と返されます。
この「石頭」ぶりには、どちらかと言えば今まで培ってきた組版ルールが揺らいできている世相に対して、伝統として引き継いでもらえるという心強さを感じます。
そういう私も「直線と直角」思考での変化に乏しいレイアウトになりがちで時代に置いて行かれているのですが、中には「突拍子もない発想」で私などが考えも及ばない斜めになったり曲線になったり変幻自在のレイアウトでお客様の期待に応えてくれるオペレーターさんも存在します。
そんなオペレーターさん達は、業界団体の技能コンテストで上位10位以内に入り東京での本選に進出する者もいる腕利き揃いです。
「分からず屋」の私に、「石頭」や「突拍子もない発想」のスタッフで欠点を利点に変えながら「おしくらまんじゅう」をして我が社の「広がり」を作っています。
なかなか十分なご奉仕が行き届かないのですが「1パーセントでも疑問があったら確認」を合言葉に校正紙の上でやり取りして、「発注者様」とその先におられる「本を読む人」の利益になるべく、「カッチリ」にも「柔軟」にも、ご期待にお応え出来るよう日々精進しています。
コメント