「組版よもやま話」も回を重ねて3回目になりましたが、相変わらずタイトルとの乖離は改まらず、今回は題して「写真は『まこと』か?『いつわり』か?」という意味不明な内容で開始します。
「写真」は漢字で「真を写す」と書きます。ところが大きな声では言えないのですが我々の仕事では一概にそうとはいえない事もしています。「偽りを写す」ので「写偽」とでも言うのでしょうか。
画像処理といえば、大袈裟に聞こえますが、デジタルには疎い私が、スキャナーやペンタブレットに付属している一般ユーザー向けの廉価版画像編集ソフト「Photoshop Elements」というソフトであれこれと悪戯をしてみました。
まずはお客様からの依頼で多いのが風景写真の中の電線を消す事です。
私が駆け出しのはな垂れ小僧だった昔、デジタル処理などないアナログな時代は、外注に出して写真に直接エアブラシで背景の空の色を調色して吹きつけて消してもらっていました。
青空など背景が単調でしたらまだ良いのですが、雲が有ったり、建物に掛かっていたりしたら難度が上がる職人技を要求され、請求書もそこそこの金額を要求されていたようで、余程の事がないと、おいそれとは発注出来なかったようです。
そんな職人技の世界にチャレンジしてみます。ここで使うのは「スタンプツール」という機能で、消そうと思う箇所の背景に似た色の所をコピーして上から貼り付ける機能です。
下の写真は私の勤めている東広島工場の前の道路に咲き誇る八重桜と合わせた写真ですが、やはり電線と電柱が気になり、ついでにお隣の工場の社名も気になりますので消したのが右の写真です。
「枯れ木に花を咲かせましょう」は花咲じじいの一節ですが、それを実際にやってみましょう。
花壇一面に花が咲いていますが、所々で地面の砂地が見えていますので、先ほどのスタンプツールで隠します。
ここでは歩道のブロック、視覚障害者用の黄色いタイルや花壇のレンガなどが白けて見えますので、それぞれの色を選択して変化させる機能を使って彩度を上げてみました。違いが分かるようにちょっとばかり大袈裟にやってみましたが明るい雰囲気になったでしょうか。
ついでに言えば、先だって社内の印刷物に載った私の頭頂部にもオペレーターさんが「忖度(そんたく)」してくれて髪の毛をご丁寧に盛ってくれていました。こういった「枯れ木に花を咲かせましょう」的用途もありますし、ご要望があればシミ取り・しわ取りも我が社の上級者がこっそりしてくれます。
建物も年数が経つと外壁を塗り替えるのですが、大きなビルが4棟も並ぶと一度に全部とはいかずに左から2番目の建物から塗り替えが始まりましたので左の写真では壁の色が1棟だけ濃い色で異なっています。
工事が終われば4棟とも色が揃うのですが、1年に1棟づつの施工を待っているのも時間が掛かるので先ほどの色を置き換える機能で画面上で4棟とも濃い色に揃えてみました。 お次に今回も平和公園のお出ましですが、中央にバスが鎮座しています。どいてくれる気配が無いので、左下の黄緑のコーンと一緒に力技で消えてもらいました。 ここでもう一つ小細工しているのが、資料館と国際会議場の間に見える背後の赤く色付いた木々です。これを緑色に置き換えたのですが何故そのような事をしたのでしょうか。
写真には「季節感」が伴ってくる事が多く、それは一般的には好意に受け取られると思います。
ところが年間を通して閲覧されるパンフレットなどの印刷物では却って季節感が邪魔になることがあります。季刊でしたら雪景色も有りでしょうけど、夏場に雪景色はそぐわないことでお分かりと思います(冷たい食品など例外もありますけどね)。
冬場に人物写真を撮るときなどモコモコのフードが付いたコートを着てこられたりしますと、寒くても脱いでもらって「季節感の無い」写真を心がける事もあります。
私個人の好みでは一番偽りの写真を作らなくて良い時期は、満開の桜が散り始めて、くすんだピンク色と葉っぱの緑色の何ともミスマッチな色彩の風景が過ぎ去り、新緑が目に鮮やかな5月から梅雨前の6月前半の木々の緑と青い空のマッチングが一番印刷物向きと思っています。
ここまでは「偽る」といっても見る人に好感を持ってもらおうと言う善意の気持ちで「嘘をついていました」が、最後の実験は「これ見よがしの、見え透いた嘘」です。良い子は真似などしないように願います。
今回は職場で一番アナログ人間の私が、一般向けのソフトウエアで悪戦苦闘しながら悪戯をしましたが、当社の意味不明の専門用語で話している上級者の手にかかると画像操作した事さえ分からないような仕事を目にしたこともあります。
集合写真でお一人だけ表情が芳しくないとか、違う向きを見ているなど撮り直しが効かないケースでも、別の写真から合成して溶け込んでいて感心しました。
ケースバイケースですが、お困りがありましたらこっそりお聞かせ下さい。
コメント