ブログ若葉マークの「window tribe」です。
早速ですが、私の前のブログで取り上げました広島の平和記念公園から南に向かうと吉島という町名にたどりつきます。
広島刑務所辺りまででしたら広島市の南側を東西に移動する時に通ったりしますが、ここから南側は永年広島県民をしている私にとっても、あまり足を踏み入れた事が無いエリアです。
辺りはアパート群や住宅街・事業所で、ハーバーの他にこれといった集客施設がある訳ではありません。広島高速3号線の下をくぐり、なお南に行くと吉島デルタの最南端に今回の目的地、「広島市環境局 中工場」があります。
ごみ焼却場のイメージといえば、焼く前に臭いや害虫・害獣の問題、焼いた後も煤煙やダイオキシンなどの化学物質の問題が必ず付きまとい迷惑施設の代表格ですが、その役割を担う施設が広島市の南の外れとは言え中心部に存在しています。
ここの設計は谷口吉生という建築家で、建築に興味のない方にはピンと来ないと思いますが、その作品たるや世界的には「MoMA」で名が通っているニューヨーク近代美術館の新館、葛西臨海水族園などそうそうたる作品があります。
その中でも最近で私が行ったのは上野の国立博物館法隆寺宝物館や京都国立博物館の平成知新館ですが、外観は直線を基調としたすっきりした佇まいの中に、内部は大胆でありながら厳かな雰囲気を感じる事ができる空間構成や照明で展示物を引き立てていました。
そんな博物館・美術館建築の大家のである谷口吉生は駆け出しのころは、これまた世界に名の知られた大建築家の丹下健三の事務所で腕を磨いたそうです。
広島の平和記念公園一帯の設計は丹下の手になりますが、特徴の一つとして原爆ドーム・原爆死没者慰霊碑・資料館は南北に真っ直ぐの軸線上に配置されています。谷口吉生は尊敬する師匠たる丹下の延長軸上にあるこの地に作品を作りたかったようです。
まずはお手軽に外観と自由通路「エコリアム」見学
何はともあれ、「広島市環境局 中工場」に着きました。この日は土曜日でしたが数台の清掃車が建物の中に吸い込まれていきます。
外観を一通り見てから階段を上がって二階のデッキから先ほど通ってきた吉島通りを望みます。途中で道が曲がっていて見通せませんが、道なりに北に進んだ先が平和記念公園で、その中の原爆資料館、原爆死没者慰霊碑を真っすぐに貫くレイアウトの延長線上に原爆ドームが有るのは前述の通りです。
平和記念公園との延長軸上に当たるゲートとしての貫通通路「エコリアム」に向かいます。ここは予約なしでも誰でも自由に入ることが出来る「通路」です。
一歩足を踏み入れるとニューヨーク近代美術館をはじめとする美術館設計の第一人者、谷口吉生による「ごみ焼却場」というイメージを覆す未来的な世界が眼前に広がります。
ごみ焼却場という迷惑施設のイメージを視界から隠すのではなく積極的に見せようというコンセプトです。一番に目を引く三つの塔は焼却された排ガスから煤塵やダイオキシンなどを取り除くガス吸収塔です。
この未来的な光景で映画のロケや写真撮影なども行われる事もあるそうで、私も広角レンズや魚眼レンズを用意して色々と試してみました。ファインダーを通して「光と影」「静と動」「直線と曲線」など見る人・撮る人の感性をも試される場所みたいです。
ゴミは市民生活が有る間は365日、土日も関係なく排出されますので休みなく処理されないといけません。ここでは3基の焼却炉があり、そのうち一台はメンテナンスで休止状態にしているそうですが、1日に600tの処理能力が有るそうです。しかしガラスで隔てられた目の前の光景はそんな事と隔絶された静謐な光景が広がります。
通路の先にはオブジェとしてゴミ収集車のカットモデルも目を引きます。ここを抜けると「エコリアム」の通路が建物外に飛び出して、原爆ドームからの延長軸の終着点として広島湾に開かれています。海側から見た外観も「洗練」という言葉で表現されます。
潜入、工場内部!
さて、外観はここまでで見学の予約時間になりましたので内部に入ってみます。見学予定の10日以上前に予約すれば工場内を見学することができます。この日は当然、事前に予約していまして10時集合です。
集合場所に行くと係の方が待っていますが、他の見学者がいません。どうやら私一人のようです。挨拶してナンバーロックされた扉から工場内に入ります。
コンクリート打ちっぱなしの無機質なエレベーターホールを通って、まずは工場の概略を解説するビデオを見るホールに入ります。学校からの見学などでまとまった人数が来ることも有るとは思いますが、この日は私一人ですのでVIP待遇なのか、はたまた補習授業の教室のような感じで、マンツーマンで説明をしていただきました。
順を追って書きますと、まずはここに入ってくる清掃車の車重を入口で測って、ゴミを投入後の空車状態での車重を再度測り、その差が搬入されたゴミの重量になります。
そのゴミを3基ある焼却炉のうち1基はメンテナンスで休ませてローテーションで稼働させて焼却します。ここでは1日に600トンの焼却能力があるそうです。
清掃車から吐き出されたゴミがピットという空間に集められますが、当然ここでの臭気たるや想像に絶すると思われますが、臭気をファンで吸い出して焼却炉に吹き込みゴミと一緒に燃焼して外に匂いが漏れ出ないようにしているそうで、ゴミは焼却炉内の斜面をストーカという装置でゆっくりと転がしながらムラなく灰になるまで焼くそうです。
ここからの排熱はボイラーで湯を沸かしてタービン発電機を回し、工場内の電気を賄って余剰電力は売電しているそうです。
また、温度の下がったお湯は隣接の温水プールにも使用されて、排気は濾過式集塵機、ガス吸収塔、触媒脱硝装置を経て有害物質を除去し排出されます。
説明のビデオが終わると回廊に出て、眼下には入館前に見学した自由通路「エコリアム」が見えますが、排気ガスの浄化装置が絡み合っていますので工場萌えの人には堪らない光景だと思います。
また「見せる」事を目的とした清掃工場ですのでチリ一つ落ちていない手入れの行き届き加減です。
いよいよ工場の心臓部に向かいますが、私一人の見学者のために延長100mの通路の蛍光灯が一斉に点くのは如何に自家発電とは言え恐縮です。
まずはゴミ収集車からのゴミが排出される投入ステージが眼下に見えます。ここでは自動で扉が開きゴミが収集車から投入されますが、万が一を考えてこの下の斜面にもう一つ扉が有るそうです。
手前の黄色い台車はゴミの中から探し物をする時に使う器具だそうです。刑事ドラマなどで証拠品を探したりするシーンもあったりしますが、出来ればお世話になりたくない器具です。 投入されたゴミが集積されるピットがガラス越しに見えます。ガラスの向こうは多分・・・・臭いです。しかし先ほど説明で聞いた掃気ファンでピット内は外より気圧が低く保たれており、閉じ込められた臭気が焼却炉に送られ燃やされるので外部には臭いが漏れないそうです。
写真では見えないのですが、この中でなんと数羽の鳥がいます。迷い込んだのでしょうが、食うには困りませんが出るに出られないでしょう。
写真では規模が伝わり難いですが、ピット内はゴミの山で、大型のUFOキャッチャーみたいなクレーンで混ぜたり運んだりしています。これ一掴みで4トンのゴミが運べるそうです。このクレーンを下の写真左側のガラス張りの綺麗な部屋からオペレーターさんが見下ろしながら操作しています。
実際の様子はこちらで。
この先に進むと廃熱で回される発電機が見えますが、ことのほかコンパクトです。余剰電力は売電で何億円かは儲かるようですが、それ以上にこの綺麗な工場のメンテナンスに年間17億円ほどコストが掛かるそうです。
中央制御室では映画に出てきそうなコンソールが連なっていて、モニターでは焼却炉内の様子が示されています。
1時間以上にわたり工場内を私一人の為に案内してくださった職員さんにお礼を言って、スタート地点のエコリウムに戻ります。
ここでは世間離れした未来的な光景が広がりますので、モデルさんやコスプレさんが順番待ちで交互に写真撮影されていました。
最初は建築家の事など堅苦しく書いてしまいましたが、実際のところ、友人グループや家族連れなどで行かれますと見たまんま十人十色の楽しみ方ができるスポットです。
見学後に海風に吹かれながらコンビニのサンドを頬張るもよし、ちょっと東に足を伸ばすと変化の止まない宇品エリアで広島ベイサイド探訪など有意義に時間が過ごせると思います。
【広島市環境局 施設部 中工場】
エコリウムよりさらに内部を見学する際には無料ですが10日以上前に電話予約が必要です。
【電話番号】(082)249-8517
【所 在 地】中区南吉島一丁目5番1号
【交通案内】広島駅から広島バス24番「吉島営業所」行きに乗車
平和記念公園を経由して南吉島停留所下車,徒歩約5分
工場左手前に駐車場あり。
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