本年より新たなメンバーに加わりましたが、e-メールのやり方も分からない会社随一のアナログ人間でして、さて、名前をどう付ければ良いか思案の結果、身の上を表している「 window tribe 」と名乗る事と致しました。
職場での仕事を平たく言えば雑用係のようなもので、伝言板にされて都合の悪い話や言いようのない束を預けられ取り次いだり、品物の補充や、はたまた植木の水やりをして1日を過ごしつつ、若い人からは話が長いと言われ敬遠されています。
詳細な記録マニアの一面を持っていますのでクドクドと書いてしまいますが、根気のある読者様には是非ともご贔屓願います。
さて本題に入りますが、私どもの仕事の中にはフライヤーと呼ばれる「チラシ」、はたまた「ポスター」や「冊子の表紙」など発注を頂いた方の向こう側におられる「読者・顧客」様にビジュアルで訴えかける印刷物を手掛ける事があります。
ざっくりした原稿のデータと写真・地図などをお預かりして納期までにお届けする事になりますが、ここからが思案のしどころです。
フライヤーとポスターは何となくレイアウト的には同一視してしまいそうですが、役割は大きく異なります。今回はこの辺りのお話をしてみようと思います。
ポスターについて考える
ポスターは壁や通路など人通りのある所などに貼ってあり、通りがかりの人にイベント・キャンペーンなどを伝える役割を持っています。
その為には一定の距離を置いた所からでも一瞬で目を惹く一瞥性が必要です。そこで興味を持ってもらえれば、何だろうと立ち止まって読んでもらえます。
「名は体を表す」とは言いますが、それも行き過ぎて題字がやたらと長くなりますと、かえって文字の大きさが小さくなり、遠くからのインパクトに欠けるという弊害が出てきます。
一例として下記のポスター群から、通りがかりの不特定多数の人々の中からイベントに興味のある人に見つけ出してもらってアピールしないといけないわけです。
左の掲示板で皆さんはこの混沌とした情報の中から、いったいどこに目が行くでしょうか。
大多数は伝える側の「独りよがり」が多く、見る人の側で考えられていないモノが多い事にお気づきと思います。
下の右の方は幾分アピール力があるポスターが多いようです。
ポスターは鉄道・バスの車内広告やアーケードの天井から懸垂する物などは横型が主流ですが、それ以外では縦長いレイアウトの方が一般的です。
その場合、横書きでは字数が多くなると題字を大きく出来ないケースが多いので、文のきりのよい所で改行するか、長辺方向の縦書きにしてみるなど工夫をします。
原稿をお預かりした時には、往々にして伝えたい項目がてんこ盛りで書いてある事が結構あるのですが、5W1Hの中でも、私の場合はポスター上には「誰が、何を、いつ、どこで」の順で伝える事を第一義に考えます。つまり主催者又は出演者が、どのような行事を、何月何日の何時に、どこの会場で、という内容を強調します。
それ以外の情報として連絡先の住所や電話番号も必要となりますが、自分自身がポスターを見る立場で考えると、どれだけの人が立ち止まってメモをされるでしょうか。
昨今はイベント名が分かれば興味のある方はネット検索で確かめられますし、QRコードも普及してきましたので、強調部分以外は思い切ってメリハリを付けてコンパクトにレイアウトします。
ポスターも「掲示板という競争社会」で、他のポスターとの生き残りをかけて抜きん出ようともがいている事がお分かりでしょうか。
単品としてポスターを見るのならお上品に仕上がれば作品性は高いのですが、この掲示板から一歩頭を出そうと思えば「インパクトという名の下品さ」という観点も検討してみる価値があると思います。
因みに倉敷で見た岡山弁で「すごい」の活用で書かれた観光ポスターのインパクトは、私にとっては先ほどまでの一般論的なお上品な固定概念を覆し、「理屈じゃあないんだ」と言わんばかりに足を止めて見入るほど鮮烈でした。
一有権者として選挙ポスターを見ると
特にポスターを見る人に印象付けしないといけない印刷物としては「選挙ポスター」が有ります。
政策は重要ですが、イメージも大切で、短期間に候補者の顔と名前を覚えてもらわないと得票数にも影響して当落の別れ道にもなります。とりわけ名前に関しては、掲示板に近づかなくても、ほどほど遠くから識字出来る工夫が必要です。
下の写真ではボカシを入れましたが、それでも名前が読めそうな方が遠目にも識字できる可能性が大きいと言えます。
開票時には候補者名が特定できれば良いので、同姓の方が居られないのであれば、苗字だけ強調して下の名前は思い切ってコンパクトにしている例が多いようです。また漢字の画数の多い方は平仮名で表記するのも有りのようです。
背景とのコントラスト、漢字・仮名の併用、苗字だけ大きくするメリハリ、縦書き・横書きの検討など1枚のポスターに様々な思いが込められている事がお分かりと思います。
フライヤーについて考える
「フライヤー」という言葉は私たち印刷に関わる者でもついつい「チラシ」と言ってしまうのですが、ここでは新聞の折込ちらしではなく、ポスターを小さくしたようなチラシについて述べてみようと思います。
「フライヤー」というと揚げ物をする調理器具を連想しますが、昔、航空機から撒いた印刷物から来た命名らしいです。「チラシ」も撒き散らすから来ているらしいですが、どちらも不特定多数の方々に自分の伝えたい事を知らせるツールの一つであるといえます。
先ほどのポスターは貼ってあるのでその場でしか見られないという特徴がありますが、フライヤーは「持ち帰って手にとってじっくりと見る事ができる」という特徴があります。
前述のようにポスターは遠目に周知するために5W1Hを強調する必要があるので、多くの事柄を盛り込み過ぎると逆効果で平板な印象となって周囲に埋もれてしまう事もあります。
その点、フライヤーは地図や出演者プロフィール、講演内容、演奏曲目など一層細やかな情報を対象となる方々に持ち帰ってもらって検討してもらう役割があります。
またポスターは片面でアピールしますが、フライヤーは「裏面にも記事を入れる事」でより多くのアピールができます。ポスターで引き寄せて、フライヤーで囲い込むという感じでしょうか。
ここで誤解のないように一言付け加えますと、ポスター=片面と思ってしまいそうですが、希に両面のポスターも存在して、リバーシブルで異なる内容のポスターを配布先に複数枚送り裏表を交互に掲示するもよし、同じを二つ並べるもよしで伝えたいイメージを強化してもらったりしているようです。
話を戻しますが、そんなフライヤーの活躍場所は「パンフレット立て」であったり、「平置き」であったりします。ただパンフレット立てというのがなかなかの曲者です。
下記の1枚目の写真は印刷面全体が見える什器ですが、写真の2枚目は、上半分しか見えず下半分は重なって隠れてしまう什器です。
ここではうまく題目が見えてくれていますが、どちらかというと後者の什器の方が多いと思います。
こういった用途を想定せずに、重なって隠れて見えない下部に題目・タイトルがデザインされていると、その印刷物が「何者であるか」正体が分からず手を伸ばしてもらえません。コンビニの雑誌売り場で書名が分からないと買えないのを連想すると分かりやすいです。
デザインは思わず手を伸ばしてしまいたくなる自由な発想で目を引く「斬新さ」も重要なのですが、使用されるシーンに応じた実用的な「手堅さ」も忘れないようにしないといけません。
次回の「組版よもやまばなし(その2)」は、ポスター・フライヤー・表紙などの印刷物の背景に使われる「写真」について考えてみようと思います。
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