本にだって雄と雌があります

こんにちは、くわわです。
私がオススメする本は、小田雅久仁著『本にだって雄と雌があります』です。
私がこのタイトルを本屋で目にした時、ああそうか、だからうちの本は増え続けるんだ!と、目から鱗がポロポロとこぼれ落ちた…と言うのは嘘で、『またまた何言ってんだか』と片頬を歪めつつも何故かついつい手に取ってすぐにレジに向かってしまいました。

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この本は、書物に翻弄された大阪のとある一族の歴史を追う物語です。
生涯書物を収集し続けた学者『深井與次郎』を中心に、端緒は彼の祖父が生きた江戸時代から曾孫の代に至る平成の世までの六世代に連なる壮大にして法螺話の如き家族史を、與次郎の孫である博が自身の三歳になる息子に向け書き綴った書簡という形で進んでいきます。

あまり知られてはおらんが、書物にも雄と雌がある。であるからには理の当然、人目を忍んで逢瀬を重ね(中略)果てには跡継ぎをもこしらえる。』…という衝撃的な台詞でこの物語は始まるのですが、それは家族の生活スペースをも脅かすほどに本を集め過ぎた祖父與次郎の言い訳に過ぎないと思っていた博が、小学四年生の夏休みに家族と離れ預けられた祖父母宅で思いもよらぬ体験をし、その日から祖父と共に本と本から生まれた『幻書』なる不思議な書物と生涯離れられぬ関わりを持ってしまう…という奇想天外なファンタジー風に展開していくのです。普通ならここで「そんなわけないやん」「またまた~」とツッコミを入れたくなるところ満載ですが、そこかしこに漂う妙な生活感溢れるリアルな描写に圧倒され、ていうか上手く言い含められ、ツッコもうと伸ばした手で何故かページをめくってしまわせる不思議な吸引力に抗えぬままにあれよあれよと読み進めてしまいました。

だがしかし、この本は序盤から情報量がやたら多く、聞いたことのない、もしくは聞いたことはあるけどよくわからんから使ったことがない熟語や諺、慣用句に故事成語が次から次へと立ちはだかり、最初の頃はページがなかなか前に進みませんでした。ああこういう時につくづく思い知る自分の語彙力や知識量の貧困さ。
それでも、先生辞書がないとこの意味わかりませんごめんなさいと謝る暇も惜しんで、何とかニュアンスはわかるからいいやこのまま行っちゃえー、とせっせとページをめくる衝動を抑えられなかったのは、この物語の主な舞台である大阪という環境から醸しだされる、関西人特有の軽妙洒脱な語り口が絶妙な笑いを誘い、その冗漫さが難解な言葉といい塩梅に融合されて、まるで脱線が多いけど話の面白い先生の授業を受けているかのような錯覚にとらわれたからかもしれません。
その力は大したもので、本と本の間に生まれる幻書という得体の知れない物を巡る嘘か本当かわからないような話を、太平洋戦争や日航機墜落事故などの、奇しくも今年の夏に一つの区切りを迎えて盛んに報道で見聞した日本の近現代史と共に、深井家一族の言い伝えや体験記として語られることで、私も一読者ながらそれを身近なものとして捉え、追体験しながら不思議にすんなりとこの本の世界に入り込むことが出来たのです。

森見登美彦氏の本を最初に読んだ時の衝撃もすごかったですが、この小田雅久仁氏もなかなかのディープインパクトです。彼の言葉遊びのテンポがまた、韻を踏んでいて小気味がいいんです。これを冗長と捉えて苦手に思う人もいるかも知れませんが、私にはピタリと合いました。いや、錯覚かもしれませんが。

久々に再読したい傑作に出逢いました。こういう出逢いがあるから読書はやめられません。
でもって只今読み返している最中です。
…今度は辞書を引き引き読んでいるのでなかなか前に進みませんけどね(笑)。全容を理解するにはもう少し時間がかかりそうです。

つい最近出版された、生まれたてほやほやの元気な書物です。
興味のある方、ようこそ幻書の世界へ。

でもきっと校正者泣かせの本ですよこれ。手書き原稿の時代なら更に大変だったろうな。

また来月お会いしましょう。
くわわでした。

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